みやまえ人Story VOL.2 横山隆行さん 紀恵子さんご夫妻
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みやまえ人Story
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横山隆行さん
横山紀恵子さんご夫妻 VOL.2
宮前区犬蔵在住(宮前区犬蔵出身/千葉県出身)
(1955年生まれ/1960年生まれ)
横山農園
宮前まち倶楽部コネクション:『みんなのツリー1st Season 2014』(もみの木の情報収集&運搬&保管&鉢と土の提供。ありがとうございます♪)
農薬を使わない。化成肥料を使わない。動物性堆肥を使わない。
横山農園は、隆行さんの父の代から30年以上にわたり、自然栽培に取り組んできた果樹・野菜農家である。
さまざまな農法がある中で、自然栽培とはまさに自然の摂理に即した農法といえる。農薬を使わないこと、人工的な肥料を使わないこと、動物性堆肥を使わないことは、農作物に負荷をかけない、そしてさらに自然に負荷をかけないということ。自然本来が持っている力によって、農作物を栽培するということ。これが本来の自然に寄り添った、人にも、農作物にも、そして自然にも地球にも優しい、サスティナブル=持続可能な社会のベースとしての農業であり、今こそ改めて見直したい農業のカタチといえる。
農薬を使わないことがいいことは、きっと誰もが理解出来ること。でも肥料を使わなければ、農作物は育たないのではないか。でもよく考えて欲しい。自然に咲いている花そして木の実は、肥料を与えなくとも、農薬を撒かなくとも、立派にたくましく育っているではないか。そう、その土地に合ったもの、その時期に合ったもの、そして育つにふさわしい環境を整えてあげれば、農作物は育つ。それこそが、適地適作。あとは自然の力、大地の力と農作物そのものの力、それさえあれば育つというのが自然栽培の理念である。
その大きなカギを握るのが、土。柔らかく、しっかりと根を張ることの出来る土にすることが重要なポイントだ。そのために大切なのは、日当りを良くすること、土の温度・乾度・湿度のバランスがとれていることなど。土壌環境を良くすることが、農薬や化成肥料に頼らない農業を可能へと導く。
「人間が食べるものだからこそ、人間にとっていいものを作りたい。だからこそ畑や自然に、異物を入れないという選択肢を選んだ」と隆行さんは語る。「人間の身体に異物が入ったら、人間の身体はそれを排出しようとする、浄化しようとするでしょ。たとえばトゲが刺さったら、身体は膿を出して、トゲを排出しようとするでしょ。身体に良くない食べ物を食べたりしたら、お腹を下して排出しようとするでしょ。それは自然にとっても、農作物にとっても同じこと。自然にとって、農作物にとって、異物と感じられるものは排出しようとする。それが本来あるべき姿だと思う。」
隆行さんは、地元で代々農業を営んできた横山家の次男として生まれた。長男は他にやりたいことがあるからと別の道に進み、農業が好きだった隆行さんが横山農園10代目の後継者となった。父の代(昭和21年)から自然栽培という農法に、試行錯誤しながら取り組んだ。そのセカンドステージ、隆行さんもまた同じく自然栽培の素晴らしさに魅かれ、跡を継ぐこととなった。
妻・紀恵子さんもまた、故郷千葉県の兼業農家という家庭で育った。その影響もあり、農業が好きで農業高校に進んだ。卒業後は市場に勤めたり、自然栽培の農業に従事したり、そうした商品を扱う会社に勤務したりなど。食の大切さをよく知っているからこその仕事に、一貫して従事してきた。そして今もなお、自然栽培による農作物の生産から販売、加工品作り、そして普及活動にと積極的に活動を続けている。
栽培しているのは、主に果樹。梅を筆頭に、栗、柿、杏、ブルーベリー、すもも、レモンやゆず、みかんなどの柑橘類など、四季折々、季節に応じた果樹が次々と実りを迎える。また、たけのこやふきなど自生する作物の他、大根、里芋、かぶ、トマト、なす、モロヘイヤ、ルッコラ、ほうれん草、小松菜、ピーマン、オクラ、インゲン、ハーブなどなど、多彩な季節の野菜の栽培も。また、生産だけでなく、梅やすももといった果物は梅干しやジャム、ジュースなどに加工して販売もしている。
「安全な作物を食べて欲しい。そして本当の作物のおいしさを知って欲しい。」そんな想いで、夫妻は自然栽培に取り組んでいる。「日本には、春夏秋冬がある。自然の恵み、大地の恵みに感謝して、本来はその季節季節に合った食べ物、その土地に合った食べ物を食べるべき。今は季節に関係なく、夏の野菜なのか、冬の果物なのか、何でも出回る時代になって、本来の旬がわからなくなってきている。」
「地産地消という言葉があるでしょ。その土地にあった食べ物を食べるということが大切。養生訓の教えにもあるように、半径4里(16km圏内)でとれたものを食すれば健康に過ごせるともいうでしょ。季節に合った食べ物、その土地に合った食べ物を食べるということが、人間の身体に大切なこと。」人間と食の関わりについて、隆行さんはそう考えている。
当たり前のようだけれど、当たり前ではない。お金を出せば何でも買える。好きな時に好きなものが食べられる。そんな時代において大切にしたいことは、私たち人間が、自然のサイクルの中で生かされていることの大切さを改めて見直して生きていかなければいけないということ。そうでないと真の健康は得られないのだというのがベースとしてある。
安全な作物を食べて欲しい、美味しい作物を食べて欲しいという想いから、さらに発展させて、安全かつ美味しい作物を作ることを学んで欲しいということで始めたのが「川崎自然栽培セミナー」である。今から9年前から、月1〜2回のペースで開催されている。「自分で作ってみることは大切なことだ。自分で作ってみて初めて、作ることの大変さ、作る上で何が大切なことなのかがわかる。こんな都会という場所柄、畑を借りて作るということは難しいかもしれない。だったらベランダでプランターでいいから、まずは作ってみることをして欲しい。」と紀恵子さん。
「自然栽培の農作物を食べたいというニーズは、徐々にではあるけれど、確実に広がってきている。しかし、そのニーズに応えていくにはまだまだ生産者=自然栽培農家が圧倒的に足りない。自然栽培の大切さがわかっても、作り手がいなければどうしようもない。だからこそ、このセミナーを通して、自然栽培農家を1人でも多く増やしたいと考えている。また、農家になれなくとも、消費者の立場で自然栽培の大切さを伝えていくことも同様に大切なこと。生産者と消費者、両方向の立場から、自然栽培の普及に努めたい。」それがこのセミナーの主旨である。興味があれば、いつでもどなたでもセミナーに参加可能だ。
セミナーは半年で1クール、前期(3月〜8月)と後期(9月〜2月)に分けて開催。1回のセミナーで、実習と講義がセットされた内容となっている。自然栽培とは何かから始まり、土の重要性と根の関係といったお話。実習では実際に畑を耕し、種をまいたり、苗を植えたり、除草、収穫、畑の片付け。冬の端境期には沢庵や豆腐、味噌、こんにゃくなど加工品づくりの体験も。セミナーでは自然栽培の米・野菜の販売もある。
「セミナーを通して、健康に暮らしていけることの大切さを学んで欲しい。そして、そうしたことを意識した人と人の繋がりを大切にして欲しいし、お互い、いろんなことを吸収して欲しい。そんな横の繋がりを大切にして、生産者と消費者の距離を縮めていくことも大切なことと捉えている。そしてそれは楽しいこと。やってみないとわからない。そんな想いを伝えていきたい。自分で作ることにより、その喜びを知ることにつながり、安心して食べられるということにつながっていく。」
横山さんご夫妻の他に、自然栽培普及のために応援してくれる仲間がいる。そう、セミナーで講師を務めるのは北之台開発(株)(千葉県)の須賀さん、菊池さんなど。セミナーのある日には、千葉県いすみ市から朝早く片道約2時間かけて駆けつけ、応援にやってくる。講師の1人である須賀さんは、有吉佐和子作『複合汚染』という作品の中で登場する自然栽培の専業農家のご子息。自然栽培農家のさまざまな研修を経た後、自然の農法の財団に勤務。日本をはじめ海外における自然栽培の推進に従事してきた。オーストラリアやアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、インド、ベルギー、チュニジアなどで自然栽培のプロジェクトに参加するなど、いわば自然栽培のパイオニア的貴重な存在。
「自然栽培は世界中どこでも出来るもの。実家は60年もの間、自然栽培に取り組んできた専業農家。あの人だから出来るとか、あの土地だから出来るとかではなくて、日本のどこでも、海外のどこでも出来ることを証明したくて、実際に海外に渡って、成功させてきた」と須賀さんは語る。「食べる人と作る人。生産者と消費者。お互いが顔が見える関係、理解していける関係。農家は食べてくれる人の健康を願って農作物を作る、消費者は健康のために本当のおいしい野菜を食べ続けて農家を支える。そうした活動が農家を支える。毎日の生活の中で継続していくことが大切。」須賀さんの熱き想いが伝わってくる。
自然栽培は少しずつ少しずつ、認知され始めてきている。宮前区には横山農園という、自然栽培に取り組んでいる農家さんがいる。農薬も肥料も使わない、素晴らしい自然の恵みから生まれた果物を、野菜を、ぜひぜひ試してみて欲しい。単にそれは美味しいだけでなく、健康にとってもいいもので、人間の身体にとっても、この地球全体の自然にとっても必要不可欠なものであると思う。
「農業が好きだ。農業をしていて辛いと思ったことはない。好きなことじゃないと続けられない」と語る隆行さん。「父が自然栽培を始めた頃は変わり者と言われていたが、強い信念を突き通して続けて来た。絶えず勉強して、農業に取り組んで来た。最初の頃は虫による被害など、大変なこともあった。でも今では、そんな問題も起こらなくなった。すべてには原因があるもの。農作物に虫がついたりするのも、何か原因があるから。風通しが悪かったり、そこに何か必ず原因があるものだ。すべて原因があって結果がある。これからも自然に順応した農業を続けていきたい。安心安全な農作物を提供していきたい」と語る隆行さんの柔和な笑顔、そして心強い言葉に、自然栽培の秘めたる可能性を実感せずにはいられない。
自然栽培の畑に行ったことがありますか?自然栽培の畑の土を触ったことがありますか?その感触は忘れられないもの。足を踏み入れると、ふわふわと柔らかな感触が伝わってくる。こんな土ならきっと野菜も気持ちよく根を伸ばし、成長するんだろうなあと思わずにいられない。そして、農薬も化学肥料も撒かれていない畑の気持ちよさ。目の前には尻手黒川道路が走り、マンションに囲まれた畑とは思えない、気持ちよさ。自然の香りが漂い、そして清々しい空気に包まれている。 まずは知ることから。そして食べてみることから。ぜひ♪
横山農園
〒216-0011 宮前区犬蔵1-17-36
横山農園直売所
〒216-0011 宮前区犬蔵2-28-4
販売日:水曜、土曜、日曜(不定期)
販売時間:13:00~日没まで(雨天時中止)
ブログ:NATURAL FARM in KAWASAKI
http://ameblo.jp/shizensaibai-kawasaki/
※直売所は天候や繁忙期などはお休みさせていただくことがありますので、ご了承ください。
横山農園の果樹、野菜、加工品は直売所の他に、セレサモスでもご購入いただけます。
(2016年3月~5月取材/2016年5月21日公開)
(取材&文:笠原千恵子 カメラマン:青柳和美・笠原千恵子 写真加工:浅野真紀)